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第3回 なぜ「思想の科学」という水脈なのか

 

2017年2月 日月堂  上野文康

 

このコラムのタイトルを決めようとしていて、思案をめぐらしていると、

『「思想の科学」という水脈』ということばが浮かんで来ていた。

敗戦後に生れた「思想の科学」という新しい伝統からまなびつづけたいという意志が

自分の心の最も深いところにあるということがわかる。

私は今、「思想の科学」という新しい伝統と言ったのだが、

このことの持っている意味が、この連載で明らかになっていけばいいと思う。

『思想の科学』は1946年2月に創刊され、何度かの休刊の時期を含むが、

1996年5月号の終刊まで、半世紀にわたって続けられた月刊誌を発表と

活動の中心とする思想・文化運動であるが、

その中心を担い続けた鶴見俊輔は次のように書いている。

 

鶴見俊輔

 

「思想の科学」は、敗戦後の日本に生れた、思想運動である。・・・

私たちは、まず第一に、敗戦の意味をよく考え、

そこから今後も教えを受け取ろうと思う。・・・

私たちは、「思想の科学」が官僚機構の一部でない自発的な集まりであることにねうちを感じ

これを長く保って行きたいとねがっている。

「思想の科学」は、ひとつの政治的イデオロギーを代表する団体ではない。

ただなるべくはっきりものを考え、それを誰にも分かることばで伝える習慣を、

日本でつくろうとしている。

また、ちがった仕事をしている人たちがよりあって、

おたがいのノートをくらべる場所のようなものになりたいとねがっている。・・・

 今まで日本のインテリの考えや言葉が日本の大衆から浮きあがっていたことを、

私たちは、はずかしく思う。

だから少しずつでも、自分たちの考え方のインテリくささをおとして、

大衆の一人として考える仕方をとりたい。

 しかし私たちの方向はこれまでのように、大衆をマスとしてとらえるだけでなくて、

大衆のひとりひとりへの関心をもつことにある。この関心を通して大衆からまなび、

私たち自身の感覚・思索行動を高めていきたいとねがう。

 ・・・私たちは今日の日本の大衆の必要にしっかりと結びついた思想をつくりつつ、

それが同時に世界的レヴェルに達するように力めたい。

(鶴見俊輔の執筆による。「思想の科学研究会―――趣旨と活動」

1951年。1〜2ページ。)

 

 

鶴見俊輔の姉鶴見和子(社会学者、1918−2005)は

「思想の科学」の創刊同人であるとともに、

この雑誌の創刊準備は彼女の力でなされたのだが、

彼女がその仕事の集大成ともいえる1巻選集『女書生』(はる書房、1997年)のなかで、

「思想の科学」を回想して上記の文章を引いている。

創刊号に鶴見俊輔が書いた「思想の科学」の趣旨は

もっと生硬な漢語表現の目立つ内容になっているので、こちらを引用したのだろう。

ここに書かれていることに、はじめてであった人はどんな感想を持つのだろうか。

15年戦争の敗戦の後の、鶴見俊輔の気分と意志が実にはっきりあらわれている文書である。

「はっきりものを考え、それをだれにも分かることばで伝える習慣を日本でつくる」

ということが思想の科学の目指すところだという宣言。

そのために「自分たちの考え方のインテリくささをおとして、

大衆のひとりとして考える仕方をとりたい」といい、

「私たちは今日の日本の大衆の必要にしっかりと結びついた思想をつくり、

それが同時に世界的レヴェルに達するように力めたい」という。

私には、同時期に書かれた文書として、日本国憲法の前文が思い浮かぶ。

この時期に日本人が始めようとしたことを人は時々振り返る必要があると思っている。

 

 

 

 ところで、この新しい雑誌のなまえはなかなか決まらなかったという。

創刊同人のうち3人が出した案は、鶴見俊輔が「記号論雑誌」、

丸山真男(政治学者・思想史家)が「思想史雑誌」、武谷三男(物理学者)が「科学評論」。

どれも人気がなかったらしい。

偶然に上田辰之助(トマス・アクィナスの経済思想の研究者)という人が来て、

こう言ったという。「art of thinkingという言葉がある。そこからちょっとずらして、

science of thinkingという言葉が考えられる。こういうのが、

あなたたちがつくろうとしている雑誌じゃないか」

その題名が人気があって、それを名前にしたという。

こうして「思想の科学」の半世紀にわたる歴史が始まった。

 

 

上田辰之助                         思想の科学  創刊号

 

 

 

 

日月堂 

「思想の科学」という水脈  

代表 上野文康    

 

日月堂

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