第4回 ナガオカケンメイとD&DEPARTMENT PROJECT

 

2017年5月12日 

今年に入って、とてもうれしい出会いがあった。この出会いは、私にとって、全く予期しないところからやってきた。今年の1月のことで、旅のシリーズ本をつくっているという人たちが日月堂にやってきたと息子から聞いた。その人たちと、何か中身のある話ができた手ごたえのようなものが彼の声にこもっていた。すでに発刊されているそのシリーズ本の1冊をもらったという。その1冊と言うのが「design-travel山形」だった。 

その夜、「design-travel山形」を読み始めた。巻頭に「発刊の想い」「編集の考え方」「取材対象選定の考え方」が記されている。そのことばは、とても真剣なものだった。次に紹介してみよう。まず、「発刊の想い」。 

 

 

これからの世代のみんなが、 

日本中と交流するためには、 

「デザインの目線」がとても 

重要になっていくと考えます。 

それは、長く続いていくであろう 

本質を持ったものを見極め、 

わかりやすく、楽しく工夫を感じる創意です。 

・・・・・・ 

具体的にその土地へ行くための 

「デザインの目線」を持った観光ガイドが今、 

必用と考え、47都道府県を1冊1冊・・・・ 

発刊していきます。 

 

「これからの世代のみんなが、日本中と交流するため」のガイド本をめざしてつくっていくのだという。こんなtravel本の取り組みは、きっとはじめてのことではないだろうか。 

次に、「編集の考え方」 

 

・必ず自費でまず利用すること。実際に泊まり、食事し、買って、確かめること。 

・感動しないものは取り上げないこと。本音で、自分の言葉で書くこと。 

・問題があっても、素晴らしければ、問題を指摘しながら薦めること。 

・ロングライフデザインの視点で、長く続くものだけを取り上げること。 

・写真撮影は特殊レンズを使って誇張しない。ありのままを撮ること。 

・取り上げた場所や人とは、発刊後も継続的に交流を持つこと。 

 

実行委員会を立ち上げていくような手作り感があるが、実際そうだったのではないかと思う。最後に「取材対象選定の考え方」 

 

・その土地らしいこと。 

・その土地の大切なメッセージを伝えていること。 

・その土地の人がやっていること。 

・価格が手頃であること。 

・デザインの工夫があること。 

 

彼らは、内容を具体的に作り出していくときに、「デザインという目線」が重要だという。彼らのデザインの目線に、私たち日月堂が入って来たという出会いに感謝したい。(「design travel 埼玉」もすでに完成しており、3月に発刊され現在発売中である。)しかし、デザインとは何なのか。あらためて意識する。手元に置いている「大辞林」を見ると、「行おうとすることや作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること」と書かれている。デザインというのは、作り出したいことを、想像力によって、形にしてみることで、物事を、見通し、見極めていくことなのだろう。 

実際に、読んでいく。見るページあり、読むページあり、文化の現場としての場所の紹介を重ねていく。その風土の中で繰り広げられる、土地―人―物―事のつながりを探りながら生きている現地・現場の姿を伝えようとしている。取材者がその土地に足を踏み入れ、交流している臨場感が伝わってくるのは、この本の良さだろう。事前の学びや調査にも、現地での出会いの生みだし方にも、デザインの目線をどう組み込むかが試されるのだろう。本づくりの最初に、スタッフと協力者でワークショップを開くと聞いた。こんなふうに本をつくることができるのか・・・、出来上がったページをめくりながら、この本をつくりえた彼らの実行力に感心した。 

このシリーズ本の制作はナガオカケンメイという人が始めたD&DEPARTMENT PROJECTという大きなPROJECTの一環であることがわかってきたので、彼の書いた本を取り寄せて読んでみた。ナガオカケンメイは、1965年生まれ、デザインの人なのだが、その人生経路、その行動と思考のスタイルには破格の面白さがあり、それがD&DEPARTMENTという創造性の高い PROJECTを生み出す源泉になっていると思う。創造性とは未知のもの、異質のものを結びつける営みである、ということを以前、鶴見和子の講演で聞いた。彼女は、その時、ヨハン・ガルトゥングの考えを引いて、創造性について語っていた。ナガオカケンメイの活動はこれに当てはまると思う。彼の人生経路も活

動も、意外性に満ちたものとして現れてくる。例えば、このPROJECTにつながる活動は、1998年ころからの、東京でのリサイクルショップの急増を考えるところから始まっていく。彼はデザイナーの目線で考えて、「ものをつくりすぎている」「新商品をつくるサイクルが異常に速い」「新型が欲しくなり、旧型を・・・都合よく部屋からなくしたい」・・・・つまり、ものへの思いがおかしくなっているととらえている。そして、この問題を、売り場の問題としてとらえ、「売る人が、生む人と本来のものの生み方、スピードをしっかり話し合いながらレジに立つ」ことと「売る人はお客さんとちゃんと向き合い、健全な生活のために、生活用品がどうなったらいいかを話しながら・・・買ってもらう」こと、「つまり、買う人、生む人の交差点としての売り場がもっとしゃきっとしなくては」と考えるのだ。 

このリサイクルショップの急増という現象を考えるところから始めて、それを「買う人、生む人の交差点としての売り場」の問題としてとらえきる着眼は、彼以外の誰一人としてなしえなかったことである。そして、ここにはD&DEPARTMENT PROJECTの中心軸がすでに見出されている。そのころ、かれは毎日のように、リサイクルショップを廻って、いいと思うものを買い取っては、マンションへ運んでいたそうだ。やがて、ネットショップを立ち上げ、次には、「まず、日本一のリサイクルショップをつくろう」と思い立つに至る。その時の商品取引のルールが「正しく生まれたデザインかどうか」。キーワードはデザインなのである。したがって、店の名前は、「デザインのデパートメントストア」だから、D&DEPARTMENTであるが、彼がめざすのは単なる一店舗ではなく、そこを拠点にした創造的な活動そのものであるから、D&DEPARTMENT PROJECTと名付けられる。 

 

(「design travel 埼玉」3月に発刊され現在発売中)

 

(ナガオカケンメイ さん)

 

 

思想の科学という水脈とD&DEPARTMENT PROJECT 

「思想の科学の中に自分を埋める作業にかかる。」(2010年9月10日) 

鶴見俊輔「もうろく帖」(SURE) 

 

ここで、ナガオカケンメイとそのPROJECTを、思想の科学という水脈と交差させて考えてみたい。 

前回は雑誌「思想の科学」の創刊について書いたが、1995年に終刊となったこの雑誌が、今後、多くの人に読まれることは望めないだろう。これからは、思想の科学の水脈は、それを担ってきた人々の著作と生き方そのものによって見られるようになるだろう。だから、思想の科学を知ろうとするには、まず、鶴見俊輔を見ればいい。彼は毎号の『思想の科学』に掲載される、すべての原稿に目を通していたという。この仕事に全生涯をかけて生きていた人なのだ。彼のことば、文章、著作から、発言や彼の生き方そのものにまで「思想の科学」は体現されているといっていいだろう。鶴見俊輔が思想の科学そのものなのだ。人が個人を越えて生きうることを彼の生涯は示している。 

その鶴見俊輔は、柳宗悦の思想と生き方に深い共感を寄せていた。柳とその思想は鶴見

俊輔を通して、思想の科学という水脈に深く入り込んでいる。それは、言葉と思想が日常の暮らしと深く結びついていること、言い換えれば、生活に根を持つとことを理想としている点においてなのだ。以下に「高度成長期への一つのヒント」と題して、1987年におこなわれた柳についての鶴見講演から、ことばを引いてみたい。 

 

★『民藝大鑑』五冊を貫く望みというものは、たくさん作る必要があるから、たくさん作るけれども、一つ一つを手で作ることの中に含まれる理想ですね。物の扱いのぞんざいさから離れたいということなんです。ぞんざいさというのは、大量に物を作って、大量に売るという時代には出てくるんです。 

★柳さんの考え方は、日露戦争以後のかなり購買力をもった日本の新品文化、文明開化以来、二度目の新品文化に対して出てきた。いま日本は三度目の新品文化の波の中にいるんですが、この見方は、さらにさらに劣勢になっていまして、明治、大正に比べてさらに少数派としての苦しい立場にたたされていますけれども、意味はさらに深まっていると思います。 

★大正時代の大量生産の新品文化の時代、そして今、高度成長後の本当のピカピカの新品文化、物の洪水の中なんです。これがまた、永遠に続くわけがない。この無資源の国の中で 、これが永遠に続くためには、ほんとうに地球を廃墟にする以外にない。・・・・この洪水のあとに来るものがあるんですけれども、そのときに人間は全部死んじゃうんじゃなくて、少しは生きているでしょうけれども、その時代に対してどういうふうに生きるか、ということに対して準備をしたい。 

「柳宗悦」『鶴見俊輔集2先行者たち』(筑摩書房)所収 

 

(柳宗悦)

 

 

これら鶴見俊輔のことばに接いで言えば、私たちは今、文明開化以来、4回目のピカピカの新品文化と物の洪水の中にいる。4回目の始まりはナガオカケンメイの指摘によれば、1998年ころ、東京にリサイクルショップが急増しはじめたころということになる。1990年代後半というのは、ベルリンの壁崩壊・東欧革命・ソ連崩壊によって幕を閉じた東西冷戦体制の終焉後に現れた世界資本主義のグローバル化による経済・社会現象がはっきりとした姿を見せはじめた時期である。先進資本主義国の世界企業がアジア諸国に生産拠点を移すなどして企業競争―商品競争が激化し、限りない低価格競争や新商品開発と流通の波が社会に押し寄せたのがこの時期である。高度成長期を念頭において語った鶴見講演のころより、状況はさらに困難さを増しているという実感は私だけのものではないだろう。どちらの時代も、私たちは同時代としてその中を生きてきたのだし、高校社会科教員として生きてきた私には、この社会のことを考えるのが日々の仕事であった。鶴見俊輔がここでつかっている「物の扱いのぞんざいさ」ということばは、100円ショップの隆盛一つとっても極限まで来た感がある。それだけに柳宗悦の提唱した民藝運動を手掛かりに考えることは、依然として有効性を失っていないのだが、この時代の状況に向き合うた

めには、新たな創意工夫が必要になっている。 

日々私たちがさらされている商品の世界、物とお金の世界に生じている混迷、まぎれもなく日本社会のど真ん中にあるこの課題に対して、ナガオカケンメイが始めているD&DEPARTMENT PROJECTは見事な着眼をもってスタートしたことは先にふれたとおりである。柳宗悦のキーワードが民藝であったが、ナガオカケンメイのキーワードはロングライフデザインである。リサイクルショップを廻って集めた正しいデザインの生活品には1960年代につくられたものが多いという発見から、彼は60VISIONという生産品のシリーズを発案する。廃版になっている場合には生産企業に掛け合って再生産ラインにのせるという取り組みまでして、日本社会にロングライフデザインの生活文化を根付かせようとしている。この生活品を並べ、カフェとレストランを持つD&DEPARTMENT ショップを、東京世田谷を第1号店として、全国47都道府県のすべてにつくり、それらの場所が、それぞれの地域の地方文化の拠点としての活動を担っていくことを目指していく。今活動しているのが、東京、大阪、札幌、静岡、山梨、京都、富山、福岡、鹿児島、那覇、seoulの11か所。この店舗運営から、新たにdesign-travelのシリーズを2009年11月よりスタートし、さらに東京渋谷の駅前ビル渋谷ヒカリエ8Fに、「d47 MUSEUM」「d47 design travel store」「d47食堂」をオープンしていく。ロングライフデザインという思想を掲げて、現代日本の社会生活・生活文化のなかに波紋を広げ、新局面を切り開こうとするこのPROJCTを多くの人が注目してくれるといいと思う。ここには、日本社会の明日を切り拓いていく希望があると思う。 

 

追伸 

現代日本の社会生活・生活文化、物とお金の世界に新局面を開いた活動として、生協運動が長い歴史を持つものとしてあるし、近年ではフェアトレードがそれに加わると思う。しかし、D&DEPARTMENT PROJECTはそれらの活動が担いきれなかった新機軸を持っている。今はその点に注目したい。

 

 

 

日月堂 

「思想の科学」という水脈  

代表 上野文康    

 

日月堂

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 11:30〜16:30
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土日祝
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